英国陸軍には、昔からヤギがいるそうです。

とはいってもマスコット的なものとか、「一日駅長」的な存在のものではなく、れっきとした軍籍を持つ軍人ならぬ軍ヤギとしてのヤギで、しっかりと認識番号も与えられているのだそうです。
なんでも英国陸軍では18世紀から、隊にヤギがいるという伝統があるとのこと。

ルーツとしては、アメリカ独立戦争のときに、ウエールズ軍が現地をうろついていた野生のヤギをとらえて、そのヤギに軍旗をかかげさせて進軍した、という故事から始まる伝統だともいわれているようです。
それから後、別のヤギが第1次大戦のときには正式な軍ヤギとしていくつもの戦場に従軍し、勲章をもらったという記録も残っているそうです。

 
英国王室では、1837年(日本では大塩平八郎の乱があったころです)に当時のペルシャ王室から、即位記念にヤギの群れを進呈されてから、王室でヤギの群れを飼っていたのだそうです。
そしてこの飼っているヤギの中から軍に下賜したヤギが軍に所属する、ということがされていたのだそうです。

 
そんな中、2001年にある一頭のヤギが入隊します。
それが「ウイリアム・ウィンザー 兵長」 今回のお話の主役です。
本当の名前は「ビリー」というカシミアヤギだそうです。

(画像はwikipedia より)
ウイリアム・ウィンザー1世

このビリーの任務は、所属する連隊を率いて行進すること。
王室や外国要人などの前で行進をするときには、かならずこのビリーが連隊を率いていたとのことで、もともと連隊を率いて行進するということは軍隊ではとても名誉なこと。いかに重要な役割を与えられた山羊だったかがわかります。

 

ところがこのビリーに転機が訪れます。
2006年に外国の基地で、エリザベス女王の生誕80年記念のパレードを行うことになった時に、ヤギ少佐とも呼ばれていた調教師の言うことも全く聞かずに、音楽奏者に頭突きをしたり隊列を維持することもできなかったんだそうです。

このことが「無礼」だとされて、「兵長」から一般兵に降格になってしまいます。
それまでは兵長ということで、一般兵から見れば上官にあたります。
つまりはビリーとすれ違うときには「気を付け」をしなくてはいけない、ということです。
これが降格になったことで一般兵たちは「気を付け」の必要がなくなったということです。

 

その後、「反省しよく功績を残した」とのことでビリーは兵長に復位し、2009年に見送られながら軍を退役、動物園で余生を過ごしているそうです。

退役後、軍はビリーの後を継ぐヤギを探して野生ヤギの捕獲を行い、ウイリアム・ウィンザー2世としてそのヤギは今も軍務についているそうです。

 

このように、英国ではヤギは「マヌケ」などのイメージとはまた違った価値観で見られているようです。
とはいえ、昔から一貫してヤギを敬っていたわけでもなく、船乗りの間では海の上で男だけで長い間過ごすことに耐えられない船乗りが続出していたため、その慰み者とするべく船に乗せられたヤギというのも多いんだとか。
このほかにも世界ではヤギを性の対象にする行為は多くみられるようで、こんなとんでもない事件もあったそうです。

ヤギをレイプした男、法廷で「ヤギも同意した」と主張。(ナイジェリア)

ところかわればというものなのでしょうけど、我々には理解しがたいお話です。

 

ということで今回はヤギ兵長のお話でした。