よくおなじみのアルプス一万尺。

小さな子供の手遊びで用いられることの多いこの曲ですが
アルペン踊りを踊るのは何の上? というネタはさんざん使い古されているネタですので、まあ「子ヤギの上で」は間違いで、正しくは「こやりの上」だというのはよく知られていることと思います。

だからこそ、わかっていて「子ヤギの上で」と歌うのもお約束かなと思います。

ですが実際に子ヤギの上で踊ったら大変なことになります。
ヤギをつぶすつもりですかあなたは。

 

似たようなフレーズで「子ヤギが上で踊ってる」ならこんなのもありました。

問答無用でかわいいです。

 

それはさておき「子ヤギ」と聞くと、アルプスの少女ハイジのユキちゃんのイメージが強い人も多いのか、アルプス山麓で飼っているイメージが強くて、アルプスというキーワードとヤギがリンクしていることが多いのかもしれません。

 

それゆえに

「アルプス一万尺」and「”こやぎ”っぽいキーワード」

検索結果

「アルプス一万尺子ヤギの上で」

 
となった人が多いのではないかと思ってます。

 
かくいう私も、ハイジの影響で
「ヤギ」=>「おっぱい」
「おっぱい」=>「ヤギ」
のイメージができているせいで、
「ヤギ」という連想配列の最初に「乳しぼり」という文字列が格納されてしまっています。

 
まあ乳しぼりネタはまた別の機会にするとして、このアルプス一万尺はそんな経緯から以下のような認識が強いのではないでしょうか。

 

  • 「アルプス」とはヨーロッパアルプスのこと
  • もともとがアルプス地方でできた歌
  • アルプス地方から日本に伝わった歌
  • 「アルプス一万尺」から始まる歌詞も曲名も現地語をに翻訳したもの
  • よってアルプスの山の上でアルペン踊りを踊る歌


  •  

    ですがこれは全面的に事実と異なっています。

     

    どうやら正しいのは(一部不詳な説も含まれているので正確性は担保できませんが)

     

  • 「アルプス」とは「日本アルプス」のこと
  • もともとがアメリカでできた愛国歌で「アルプスどころか山とは何も関係がない」
  • さらにコネティカットでは州歌にまでなった
  • ちなみにアメリカでの曲名は「Yankee Doodle」(ヤンキードゥードゥル)
  • そもそもアメリカでの発祥は、アメリカ独立前に英国兵がアメリカ兵(yankee)をからかうために歌っていた歌だった
  • そもそも「Doodle」というのは「マヌケ」を指す言葉で、現在のアメリカ人に相当する人たちがバカにされている歌なのに、なぜかアメリカ人の愛国歌になってしまった
  • さらにそれ以前をたどると、オランダ植民地の農村の小作農が歌った収穫歌だという説もあるが、よくわかってないらしい
  • 開国前夜の日本にペリーの使節団が来た時に音楽隊が演奏したことで日本に上陸した記録があるが、その時は日本に定着はしなかった
  • 戦後に日本で一般人に登山がはやるようになって、自然発生的にこの曲に勝手に山登りに関する詩と曲名をつけたものが成立した(どこかの大学の登山部由来ではないかともいわれている)
  • そのときについた詩が「アルプス一万尺」からはじまる例の歌詞(もっとも自然発生の口伝曲なのでオリジナルの歌詞はもうわからないので最初は歌詞も違った可能性はあるが)


  •  

    このようなものなんだそうです。

     

    MS-DOS時代のパソコンで、ヤンキードゥードゥルなるコンピュータウイルスが流行ったことがあります。

    このウイルスは、「アルプス一万尺が午後5時になると流れる」という、今の基準でいうと「ウイルス」というよりも「ジョークプログラム」に近いような代物だったようで、これが流行ったときはまだウイルスは脅威としてはあまり認知さえていなかった時代。
    (ちなみに私は当時PC9801使いで、発症しない環境だったのでこれを経験したことはありませんでしたので詳しいことはわからなかったりしますが)

    ただこれはウイルス名からわかるように、日本向けに「アルプス一万弱」を流してるのではなく、あくまでも「ヤンキードゥードゥル」を流している、というシロモノ。
    私もここではじめて原曲の名前が「ヤンキードゥードゥル」というのだということを知りました。

    当時は、なぜアルプル一万尺の原題が「ヤンキードゥードゥル」なんやねん、と思いましたがこのような変遷があったのなら納得です。

     

    アメリカでの「ヤンキードゥードゥル」はこんな感じ。


    アメリカの「愛国歌」っていう感じがしますね確かに。

     

    それで、肝心の日本語歌詞のほうですが、歌詞は29番まであるそうで、
    1番はおなじみ
    「アルプス一万尺 小槍の上で アルペン踊りを さぁ 踊りましょ」

     
    ちなみに2番が
    「昨日見た夢 でっかいちいさい夢だよ のみがリュックしょって 富士登山」

     
    8番から11番では
    8「染めてやりたや あの娘の袖を お花畑の 花模様」
    9「蝶々でさえも 二匹でいるのに なぜに僕だけ 一人ぽち」
    10「トントン拍子に 話が進み キスする時に 目が覚めた」
    11「山のこだまは 帰ってくるけど 僕のラブレター 返ってこない」

    なんやらモテない男が片思いして悶えてる感じになってきました。

     
    そして
    20「命捧げて 恋するものに 何故に冷たい 岩の肌」
    21「ザイル担いで 穂高の山へ 明日は男の 度胸試し」

    なんか現実逃避して 「オレは山に生きるんだぜ」って言ってしまってる気がします。
    12番から19番でこの人に何があったんでしょか。

     
    そしてついに
    25「槍と穂高を 番兵において お花畑で 花を摘む」
    26「槍と穂高を 番兵に立てて 鹿島めがけて キジを撃つ」

    「花を摘む」や「キジを撃つ」は用を足すことですね。
    「花を摘む」は一般でもよく言いますが、「キジを撃つ」は山人の隠語なんだとか。
    完全に山に入り込んでしまいましたねこの人。

     
    そして最後29番で
    「まめで逢いましょ また来年も 山で桜の 咲く頃に」

    「まめ」の解釈がいまいちわからないのですが、「健康で」とかその辺でしょうかね。
    「また来年の春にくるからなー」と山に対して言ってるんでしょうきっと。
    8-11番あたりの展開はどこへ行ったんでしょうかね。
    完全に「オレは3次元には興味がないぜ 2次元がいれば十分だ」と言ってる人みたいな感じになってる気がします。

     
    こんな感じで、いかにも大学生くらいの若者が、恋ごとと好きなことに生きているさまを、若干の自虐も含めて歌ったような歌詞でなかなかに面白いですね。

     

    そこで最大の問題として残るのが1番です。

    「アルプス一万尺 小槍の上で アルペン踊りを さぁ 踊りましょ」

    「こやり」というのは正しくは「小槍」であることがわかります。
    では、この「小槍」というのはなんなのか。
    小さい頃、親から「小槍というのは山のてっぺんのこと」だと教わった記憶があります。
    ですがこれは結局ウソでした。

     

    どうでもいいですが同じころ、「イタダキマン」というアニメの主題歌で
    「君のハートをいただきー  (中略) 山のてっぺんいただきー」」
    という歌詞があって、
    「なんでここで 山の話が出てくるんだろう」と疑問に思ってたら、親から
    「山のてっぺんのことを「いただき」っていうんだよ
     だからいただきといただきをカケたシャレなんだよこれは」
    と教えてもらったのを思い出しました。
    …って本当どうでもいいですねこれも。

     

    「小槍」というのは日本アルプスにある「槍ヶ岳」の最高峰(大槍)のわきにある、少し小さめの峰のことをいうのだそうで、山のある場所の固有名詞なんですね。
    それでもって、この小槍の頂上の標高が3030mで尺貫法で表すとちょうど10,000尺になるのだそうで。
    だから「アルプス一万尺」なんですね。うーん納得。

     

    槍ヶ岳についてはこちらから。
    https://www.yarigatake.co.jp/

     

    大槍と小槍はこれを見るとわかりやすいです。(上記のサイトから引用)

    右側の高くつきだした三角形のが「大槍」で、その右にある小さなでっぱりが「小槍」だそうです。

     

    というわけでこの小槍の上で踊る、っていうのもかなり難易度が高い気がします。
    子ヤギの上で踊るとかムリありすぎだろ、とか思っていましたが、こっちもムリありすぎですね。

     

    そんなわけで今日はアルプス一万尺についてでした。
    最後に、この曲を元にしたパロディソングを貼って終わりにします。

     


    (野沢直子:アルプスの少女ハイジ)